にのまえあきら『無貌の君へ、白紙の僕より』:メッセージ性の高いタイトル、そして目次に惹かれた1冊
この物語は、この構成でしか成り立たない——。
多くを明かすことはできませんが、そんな作品でした。
第30回電撃小説大賞にて”選考委員奨励賞”を受賞した作品です。
『無貌の君へ、白紙の僕より』の一番の魅力
この作品の魅力をネタバレなしで伝えるのは本当に難しい……。
悩んだあげく、X(旧twitter)では以下のようにポストしました。
にのまえあきら『無貌の君へ、白紙の僕より』#読了
— エン📚 読書と執筆 (@kuzumien) July 6, 2024
第30回電撃小説大賞にて、選考委員奨励賞を受賞した作品です。
まず目次からして普通の構成じゃないなと思いながら読み始めました。
読み終えて……。
期待以上の技巧作でした。やられた。 pic.twitter.com/dFD1UmkUWF
ポイントは目次です。
目次
序章 4
第一章
無貌の君 7幕間 116
第二章
白紙のあなた 119終章
にのまえあきら『無貌の君へ、白紙の僕より』3ページより
だから、君を見ようと思った 269
主要な章が2つ。
しかもその間に見開き1ページの”幕間”があり、終章へつながっていく……。
少し違いますが、いわゆる二部構成と言えそうです。
あまりお目にかかれない構成だと思います。
僕はこの目次を見たとき、『名探偵に薔薇を』という小説を連想しました。
個人的に、『名探偵に薔薇を』以上に二部構成を活かした作品は、今後もお目にかかれないと思っています。
(僕が、作者の城平京先生のファンだということもありますが)
『名探偵に薔薇を』は精緻かつ、ぶっ飛んでいるという表現をしたくなる名作なので、これと比べるのは酷だよなと思いながら読み始めました。
結果、『無貌の君へ、白紙の僕より』もまた、二部構成(+序章・幕間・終章)を巧みに活かした作品でした。
語りすぎるとネタバレしてしまいそうなのでここまでにしておきますが、終章で「やられた……!」と思わされること受け合いです!
『無貌の君へ、白紙の僕より』はこんな人におすすめ
『無貌のきみへ、白紙の僕より』は以下のような人が、より楽しめると思いました。
- 主人公とヒロインが、辛い過去を乗り越えていく物語が好きな人。
独断でのシリアス度は”中の下”くらいでしょうか……。 - 青春な恋愛要素が好きな人。
- 創作活動が好きな人。(特に絵描きさん)
- 独特な比喩表現を読むのが好きな人。
主人公やヒロインに感情移入しながら、ストーリーと謎を楽しむ作品だと思います。
一方で、ラストの展開が多少のご都合主義に思えました。個人的に、ですが。
ネタバレなしで伝えるのは難しいですが、例えるなら「出題された覚えのない問題に、あまりに美しい答えが返ってきた」みたいなイメージです。
そういう意味では、高度なミステリー要素を求める人には物足りないかもしれません。
(そもそも、そういう要素をウリにした作品ではないと思いますが)
無理やり気味に短所も挙げましたが、随所に伏線があるし、綺麗な結末が待っているのでそこは安心してください!
『無貌のきみへ、白紙の僕より』の個人的感想
(ネタバレ最小限)
『無貌の君へ、白紙の僕より』は、良い意味で好き嫌いが分かれにくい作品で、多くの人が楽しめる作品です。
加えて、主人公やヒロインに共感できる人はより楽しめるのではと思いました。
かくいう僕もこの二人、特にヒロイン側に共感しながら読み進めました。
以下は、帯紙にある推薦文です。
僕も、人と話す時、人の顔をあまり見れません。でもこの小説を読んで、もう少し、誰かと目と目を合わせて話してみようと思いました。
きっと何か、物語が生まれるかもしれないから。カンザキイオリ——(『あの夏が飽和する。』アーティスト/ボカロP)
にのまえあきら『無貌の君へ、白紙の僕より』帯紙より
この推薦文は『無貌のきみへ、白紙の僕より』の核と呼べる部分に言及したものではないと個人的に思います。
しかし、どんな読者がこの作品に共感して感動できるか、そして読了後どんな気持ちにさせてくれるのかを端的に表現した美しい文章だと思いました。
この推薦文が響いた人は、僕も含めてきっと同じような性格や価値観なのだと思います。
物語は少女の「——私の復讐を手伝ってくれませんか」という依頼から始まります。
その真相を追いながら、少年と少女が一緒に過去を乗り越えるストーリーを興味深く読み進めることができました。
ボーイミーツガールの青春でもある点も読み味をよくしてくれています。
そして、少年と少女の両方を主人公に位置づけて二部構成にした上で、序章や幕間、何より終章で美事に繋げている点が書き手視点で見ても秀逸で、良い勉強をさせてもらった思いです。
軽快によめるけど、決して軽くはない少年と少女の物語。
すごくおすすめなので、未読の人はぜひ手にとってみてくださいね。