駄犬『誰が勇者を殺したか』:勇気をもらえる、勇者をメインに据えた群像劇!
群像劇。その上でメインキャラを据えつつ、全員が主人公。
そんな作品です。
すらすら読めてしまう、美しくてあたたかな小説でした。
至福の満足感をぜひ。
『誰が勇者を殺したか』の魅力は?
僕は小説を読むとき、執筆の勉強も兼ねてゆっくり読むようにしています。
しかし、今回ばかりは一気に読んでしまいました。
以下は読了後のポストです。
駄犬『誰が勇者を殺したか』#読了
— エン📚 読書と執筆 (@kuzumien) July 9, 2024
久々に一気読みしてしまった
すらすら読めて、止まらなくなる
メインは勇者なんだけど、群像劇でもある。そのバランス感覚がスゴすぎ……
あまりお目にかかれないつくりの小説だと思うけど、美事に機能してて尊敬しました
この勇者からは、生きる力をもらえます pic.twitter.com/HVnZ9iDXiG
誰が勇者を殺したか——。
シンプルながら興味を惹かれるタイトルですよね。
内容はというと……。
勇者は魔王を倒した。同時に——帰らぬ人となった。
駄犬『誰が勇者を殺したか』裏表紙より
〈中略〉
流砂を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。
王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリ。
最近は魔王を倒した後の世界を舞台にする作品も珍しくなくなってきてますよね。
(僕がまっさきに浮かんだのは、小説ではなく漫画ですが『葬送のフリーレン』。あれも素晴らしい作品です)
そんな中、『誰が勇者を殺したか』は、魔王を倒したはずの勇者が死亡しており、その謎を追う形をとっています。
なので公式は「ファンタジーミステリ」で紹介文を結んでいますが……。
個人的には「ミステリー要素」より、「業と情が入り混じる群像劇」の部分を推したいところです。
もちろんミステリー要素も巧みです。
一貫して勇者死亡の真相に興味を惹かれるし、あっと言わされる真相が待っています。
ただ、読者が推理しながら読むタイプのミステリーではないことを予めお伝えさせてほしいです。
群像劇を楽しみながら、徐々に真相が明かされていくのを純粋に楽しむ作品だと思います。
そして、その群像劇要素が、ほんとうに素晴らしいんですよ……。
メインとなるのは勇者なのですが、彼を取り巻く登場人物は誰もが魅力的です。
その魅力の正体は、彼らの境遇と、そこから生まれる思想や感情の語りなのだと思います。
本作では少し変わった構成や技法で、この魅力的な群像劇を体現しています。
ずいぶん思い切った書き方をするなーと思って読んでましたが、読み終わってみればこれしかないと思わされるものでした。
謎を絡めた群像劇はもちろん、『誰が勇者を殺したか』ならではの小説技法にも注目してほしいです!
『誰が勇者を殺したか』はこんな人におすすめ
『誰が勇者を殺したか』は、以下のような人に特におすすめです。
- 深く考えず勇者を軸にした人間模様を楽しみたい人。
- 人生に退屈している人。もしくはくすぶっている人。
- 少し変わった小説の構成や技法を体験したい人。
- 感動したい人。
シリアスな場面や要素もあるものの、過度にネガティブになるものではなく、むしろ感動のラストにちゃんと繋がっています。
尖った作品でありながら、万人受けもするというハイレベルな作品なので未読の方はぜひ手にとってみてください!
『誰が勇者を殺したか』の個人的感想
(ネタバレ最小限)
感想、難しいです。
”誰が勇者を殺したか?”に対する真相や、小説としての表現技法など、伝えたい感想はたくさんありますが……。
ネタバレを避けるという意味でも、今回は3つにしぼって触れていきます。
- 勇者の姿に勇気をもらった
- 真相の明かし方に嫌味がなくて清々しい
- あとがきに勇気をもらった
では順番に……。
まずこれが一番の感想なのですが、勇者の人柄や行動がほんとうに感動的なんですよ。
とにかく誠実でひたむき。なにより、常軌を逸した努力家。
勇者が努力するシーンを読むたびに、自分も頑張りたいと勇気をもらいました。
こういう感情にさせてくれるのも、読書の醍醐味ですよね……。
なにより良いのが、そういう勇者を、周囲の人間がどう見ているのかを群像劇のスタイルで見られるのが素晴らしい。
すぐに結果が出なくても努力していることに気付いてくれる人はいるんだなぁとか、頑張る人のまわりには人が集まるものなんだなぁ、とか実感しながら読むことができました。
群像劇に対しては、個性的なキャラをたくさん出して、キャラありきでストーリーをいくつも展開していくイメージがありました。
でも本作は、群像劇を使って、勇者一人にスポットを当てるつくりがすごく機能していたように思います。
そして、タイトルを「誰が勇者を殺したか」にして読者の興味を惹いているのに、真相の明かし方に嫌味がなくて好印象でした。
良い意味で作者の顔が見えないというか、最後の最後で謎を明かしてしてやったり、みたいなところがないんですよね。
個人的に、設定や展開でちょっと都合良すぎると思う点もあるのですが、そういうのが全然気にならなくて、素直に驚いて感動できました。
これは適切なタイミングで、読者が納得できる情報を揃えた上で真相を明かすことができているからだと思います。
アイデアや技術を誇示するような作家のエゴが見えず、最高のタイミングで、良い意味でしれっと明かす語り口が心地良かったです。
そして、あとがきです……。
あとがきを読んで、僕は一人の書き手として勇気をもらったし、作者さまの野心に触発された思いがします。
まあ、これは僕が小説を書いているからこそ、ということもありますが……。
あとがきを含めて、生きるための勇気をもらえた作品でした!